くらて医療と介護の連携プロジェクト(くらてプロジェクト)
Kurate Medical and Long-Term Care Collaboration Project (Kurate Project)
鞍手医療圏のがんを含む高齢の生活習慣病患者を対象に、医療関係機関、介護サービス機関、福祉(行政)機関との連携による途切れのない診療と介護の実践により、生活の質を維持しつつ、心身の機能を維持・改善し、健康寿命の延伸を目指す。
鞍手町は7,411世帯、人口14,686人(2025年7月現在)で農業が中心の旧炭鉱町である。2020年の国勢調査(https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/index.html)では、65歳以上の人口割合は41.1%、75歳以上のそれは23.1%で高齢者の多い町のうえ毎年少しずつ人口が減っている。したがって、医療機関を利用する患者もその多くが高齢者であり、また介護サービスを受ける高齢者も多い。
1)高齢患者の診療の現状と課題
日本とくに鞍手医療圏のような超高齢社会における日常診療で、もっとも重要な課題の一つは、心身の機能が衰えてくる高齢患者のマネジメントである。高齢患者の多くが、がんを含む複数の生活習慣病(高血圧、虚血性心臓病、脳血管障害、糖尿病・代謝疾患)に罹患し疾病に伴う合併症を併発している(多病、comorbidity)。したがって、複数かつ多くの薬を使用しており(多薬、polypharmacy)、服薬指導・管理や副作用対策が必要である。また、高齢者の多くが栄養障害、サルコペニアの傾向があり、栄養・運動療法を要する。つまり、高齢者の医療は疾患に対する診療+心身機能の維持・向上をも含む包括的な全人的な医療・ケアが求められる。
2)脆弱な高齢患者の診療の方向性〜医療と介護の連携
脆弱な高齢患者が心身の機能を維持しながら過少でもなく過剰でもない適正な医療を受けるためには、見守りや介護による患者の生活基盤の整備が必要である。高齢者の介護を社会全体で支援する仕組みとして2000年に介護保険法のもと介護保険が開始されている。介護保険の利用には要支援を含む介護認定が必要である。
介護認定審査では介護の必要量を介護に必要とする時間に置き換えて全国一律の基準で客観的に判定される。まず市町村の認定調査員(ケアマネジャー)による認定調査と主治医意見書に基づいて、コンピューター判定(一次判定)が行われる。さらに保険・医療・福祉の専門家が一堂に会して介護認定審査会を開催して審査判定(二次判定)を行い、市町村が最終的に介護認定を行う。決定された介護度に応じて介護サービスが提供される。
1)くらて病院・やすらぎ園・鞍手町包括連絡会(handout資料より)
2015年12月10日開催
鞍手町地域包括支援センターを中心にくらて病院・やすらぎ園の担当者が参加して、「介護保険医療連携についての課題・問題点」について議論が行われた。
2)くらて町多職種連携会議(handout資料より)
2016年7月23日開催
医療サイド、介護サービス、住まい・環境、住民、行政、それぞれについて現状を検討し、良い点、問題点をあげ議論した。
3)直方鞍手地域在宅医療・介護連携推進協議会
直鞍地区在宅医療・介護連携推進事業に関する協定書が直方市、宮若市、鞍手町、小竹町の間で締結され、設置要綱を策定し2019年4月1日から施行している。第一回直方鞍手地域在宅医療・介護連携推進協議会が2021年6月11日に書面開催され、2021年度の各団体の活動計画、推進事業方針が提案された。ただ、SARS-CoV-2 感染拡大のためその動向をふまえ活動していくことが記載されている。
1)鞍手町内の医療機関と介護・福祉機関の連携体制の構築と実践
鞍手町の公的医療・介護機関であるくらて病院と鞍寿の里の医師とスタッフが中心となり、両施設の医師ならびにメディカルスタッフ、鞍手町内の医師会員、看護ステーション、調剤薬局、介護施設に呼びかけ、鞍手町両施設の関連職種と院外医療機関の同じ職種との連携体制の構築を行う。
2)高齢者機能評価に基づくがん治療方針最適化教育プロジェクトとの連携
Educational Project on Optimizing Cancer treatment according to geriatric assessment, EPOC Project(日本癌治療学会・ファイザー公募型医学教育プロジェクト、研究代表:吉田陽一郎 福岡大学病院医療情報部 教授・部長、消化器外科)
医療の進歩によりがんは、高齢者の慢性疾患となっている。ただ多くの高齢がん患者は、加齢に伴う心身機能の低下に加え、多病・多薬、経済・社会的な問題を抱えながらがんの診療を受けている現状がある。したがって、個々の患者について、これらの問題を総合的に評価(高齢者機能評価)し、それに基づいてがん診療を行っていくことが求められる。本EPOCプロジェクトは、高齢者のがん医療を支援する教育プロジェクトであり、教育カリキュラムのもと、教育ツールならびに研修プログラムを作成し、適正ながん医療の実践をめざしている。これらを利用して、それぞれの職種に必要な高齢者のがん診療に役立つ知識と技術を身に着けることを目標とする。
1)2025年第4半期~2026年 高齢がん患者を対象とした事業
がん罹患者の79.7%(2021年)、死亡者の88.5%(2023年)が65歳以上であり、小児や65歳未満の成人例(非高齢者)もあるが、高齢者の慢性の病気と言える。また、2024年の日本人の死亡者数が160 万 5298 人でがん死が約39 万 3 千人と推定されていて、4人に一人ががん死であるが、くらて病院ではがん患者の入院ならびに死亡退院が少ない。その原因は不明であるが、鞍手町外の医療機関で診療、医療・介護機関での終末期のケア、鞍手町内での在宅、介護施設での看取りが行われているものと考えられる。
(1) くらて病院、安寿の里での集学的ながん診療、医療と介護の連携
高齢がん患者の診療・介護にあたって悪性疾患の基礎から臨床をそれぞれの職種に必要な情報を習得することはもちろんであるが、一番重要かつ難しいのは、個人差の大きい高齢患者のおかれている環境を含む全人的な評価である。まず、全身状態、心身機能ならびに患者のおかれている患者背景を評価・理解する方法を習得する(高齢者総合機能評価、comprehensive geriatric assessment, CGA)。そして、それに基づいて診療・介護方針を決定する。その方策として次の2つの事業をとおして学習する。
①多職種によるモデルケースの作成
多職種がかかわる事例(症例)を検討し、モデルケースを作成する。そのなかでCGAを習得する。モデルケース作成にかかわった医療・介護者と合同でその役割を解析し、各人が所属する団体とくらて病院との連携体制を構築していく。
(i)評価
高齢の固形がん、造血器腫瘍の症例で、CGAの3ドメイン(身体、認知・情動、社会・経済)のいずれか、あるいは複数障害のあるモデルケースを10例以上作成する。各症例が抱える問題を関連職種が検討し、解決に向けての治療や処置の妥当性を解析し、その職種の役割と課題を再考、同様の症例に遭遇したときのマネジメントの参考にする。
(ii)鞍手町内のくらて病院外の各職種グループと同様の検討ができる会を計画・開催する。
②がんを知るe-learning
EPOCプロジェクトで作成・運用しているe-learningシステムを使ってがんの基本的な知識と技術を習得する。上記作成したモデルケースの診療・ケアの妥当性を議論できる基礎知識とし、医療関係者だけでなく介護関係者も介護に関連したテーマを勉強してもらい、介護施設入所中あるいは在宅介護中のがん患者が、医療機関でがん診療を安全で効果的に受けることのできる体制作りを模索する。
(i)評価
14のe-learningコンテンツのうち、高齢者機能評価ならびに各職種と関連のあるものを視聴し、その評価と小テストを実施・送信する。さらに研修会や症例検討を通し、各職種に必要ながんの基礎~臨床を習熟する。
2)2027年~
1)の成果を参考に、がん以外の生活習慣病についてプロジェクトを拡大する。その評価については、1)の成果を参考に科学性・倫理性・妥当性を念頭に検討・策定する。
(1)生活習慣病等、慢性疾患に罹患している高齢患者を対象とした事業
①入退院を繰り返す慢性疾患患者の再入院頻度の低下ならびに臓器不全への進行抑制を目的とした医療・ケアの実践
対象疾患:慢性心不全、腎機能障害、誤嚥性肺炎、その他
②対策
(i)全身状態の改善
食事・栄養:栄養管理、減塩、サルコペニアあるいは肥満予防
運動:ラジオ・テレビ体操、筋力トレーニング
感染予防:ワクチンの定期的な接種
(ii)シームレスな医療と介護の連携
在宅医療については症状が悪化してからではなく、定期的な巡回診療等を検討する。
在宅医療担当医による診療
訪問看護・介護、在宅理学療法
施設嘱託医ならびに施設入所スタッフによるケアの標準化
(2)医療施設、介護施設、行政との連携の構築とチーム医療・介護の実践
モデルケースを参考に、診療・介護方針に課題のある症例を関連職能団体の参加を得て定期的な検討会を実施する。その過程で、各団体間の密接な連携関係を構築する。
(3)ポリファーマシー対策
高齢患者の多薬は、副作用、薬剤相互作用、残薬、医療経済の点から大きな問題である。くらて病院薬剤部、調剤薬局が協力して、4剤以上の処方薬を服用している患者について、定期的に薬の適用、相互作用等をチェックする。
病院薬剤師会、薬剤師会が中心となって薬剤の適正使用をはかる。その際、直鞍医師会、鞍手町内の診療所の医師との協業を確立する。
1)e-learning作成:「高齢者機能評価に基づくがん治療方針最適化教育プロジェクトEducational Project on Optimizing Cancer treatment according to geriatric assessment. (EPOC Project) 」(事業期間:2024年1月1日~2026年12月31日、研究代表:吉田陽一郎、福岡大学病院医療情報部教授・部長)
本プロジェクトに関連した事業で、通常業務時間外の業務については、病院の規定に従う。
2)通常業務内での業務については人件費、時間外手当等は発生しない。
本プロジェクトは2022年より準備・一部開始していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で中断した。その後、2023年くらて病院に新理事長・病院長が就任、COVID-19が5類感染症に移行したことを契機にプロジェクト内容を見直し、実施要項を2025年9月に全面改訂、準備を整えて2026年1月1日より開始する。
プロジェクト期間は、目的とする医療と介護の連携体制ができ、有効で機能的な医療・介護が町民に十分届くようになるまでであるが、鞍手町内の医療と介護関連機関とのあいだの連携の確立と事業のスムーズな運営には年単位の継続した努力が必要である。また、行政や医師会等の協力といった外的な要因も大きいため、3~5年ごとに成果を検証し、本事業の見直しをしていくことが妥当と考えられる。